「最強のふたり」
パラグライダーやりたくなるね。
黒人の介護者がもう太陽のような性格のヤツで、なんかやらかしても「ま、いいか」ってなるようなタイプの、武山一族の対極にいるようなヤツなわけです。のち起業して社長になったのも納得の豪快さ。こいつが障害あるなし年齢性別一切関係なく人と接するので、その絡み方がまあ気持ちいい。「このチョコは健常者用だからお前にはあげない」というユーモアもぜんぜんいやみっぽく聞こえなくてすばらしい。
彼に介護を受ける顔以外麻痺のおじさんも、役者さんは目の動きでしか演技ができないわけで、それで微妙な心の動きをすべて表現しているのですごいなあと思いました。でもこのおじさん、どんどん影響を受けて自由になっていくのはいいのだけど、娘に向かって「お前の彼氏は我が家に出入り禁止!」とか言った直後にデリヘル呼んで耳をなでてもらったりしてて急激に解放されすぎです。そりゃ娘もグレるわ、と思いました。
エンドロール、モデルとなった本当の「最強のふたり」が出てくるのですが。こ、黒人じゃなくね?今年観た映画の中でも結構な衝撃のラストでした。
「夢売るふたり」
この監督の映画は必ず「誰かをダマす人」が出てくるのですけど、前作までってそのダマしがやさしさありきだった気がするのですよ。結果的に誰かは傷ついてしまうものの、その優しさに救われる人は確実にいて、ああよかったねえという気持ちが観ている側の心に残るという。
それが今回はダマす側の率直なエゴからはじまって次々と獲物を罠にかけていくため、すわピカレスクロマンに変身かと思いきや、結局ダマされる側の人たちも勝手に救われて行ってしまうという都合のよさ。ストーリーだけ追っていくと相当むちゃくちゃで感情移入できず、松たか子の自慰シーンにだけ目が行ってしまうのは必然っちゃあ必然であるわけですが、そいつはもったいない、とゆいたいです。
なんかこう、認めたくない自分への甘さ、って皆あると思うんですよ。他人からやられるとスゲー嫌かも知れないことでも、自分が仕掛ける側になるとまあこれくらい大丈夫だろう、みたいな感覚。原発関連の発表する人たちまでいかなくても、公共の便所でこぼしたけどふかない、くらいのレベルで。そこをぐいぐい突き付けてくる話で、その痛みを作中で一心に引き受けるのが松たか子なんですね。アベサダはいつでも逃げられる位置にいるから気楽なんじゃないかなと思うんですね。クライマックスの子どものアレはちょっと納得がいかないと観ていて思ったのですが、そう考えるとサダヲちゃんざまあみろという感覚も生まれてくるから不思議ですよね。
ネット上の感想で「パン祭りのおねえさんがあんなに食パンをまずそうに食うなんて・・・」というのがあって笑った。確かに!そのほか脇キャストもチョイ役含め、微妙なハマっていなさがとてもよかったです。つるべさんが田中麗奈の髪を引っ張るシーンとか最高やね。そういえばエンドロールのキャストに、ヤン・イクチュンって出てびっくりしたのだけど、これって「息もできない」のヤン・イクチュン?すげえな、どこに出てたの?
上遠野浩平「恥知らずのパープルヘイズ」

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一番すごいと思ったのはスタンドが出現してくる描写。「相手の姿が陽炎のようにぶれ、そのぶれだけがこちらに向かってくる」という一文を読んだとき震えました。そうか、そうだよなースタンドって。小説家すごいわ。むかし活字倶楽部のインタビューで上遠野自身が島本和彦版スカルマンを指して「イタコ状態」と表現してたけどまさにそれで、地の文含めてジョジョそのもの、いやーブギーポップってジョジョだったんですね、なにを当たり前のことを。
上遠野浩平「戦車のような彼女たち」

- 作者: 上遠野浩平
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僕らはもう状況に慣れすぎていて、だってメフィストだのファウストだのにブギーっぽい話が載ること自体大ニュースであったはずなんですよ2003年頃であるならば。だって昨日ひさしぶりにネットの人たちとお会いしたら女の仕事ってね、みたいな話になって大森南朋の話になってうわすごい文化系女子トークだどうしよう、と思ってしまったのですが酔っぱらっていたので特に問題ありませんでした。
ああ、幸せになりたい。
「鍵泥棒のメソッド」
これはだめじゃろ。内田けんじ監督作品はダイダイダイスキ(2作品しかないけど)なもんでソコソコ期待して観に行ったのだけど、あまりに物語が直線的すぎ。登場人物に関する魅力的な謎も、すべてなんてことない理由づけですべてスルー。広末も堺雅人も怪しい雰囲気を漂わせまくってていい感じなのに、最終的には普通の人に落ち着いてしまう、もったいない。片時も目が離せない緻密な伏線を期待していたのに、部屋の片づけしながらDVD流してるくらいで十分なレベル。そりゃないぜとがっかりしちまいました。
役者の演技に統一性がなく、噛み合ってないのも気になる。ボス役の荒川良々なんてキャスティングの意外性を意識しすぎてせっかくの役者を全然生かしきれてない。芝居についてあーだこーだいうシーンがある割には、この映画自体演出が雑すぎ。いやもう邦画界はそろそろ、広末と香川制限令をだすべきじゃないのかしら。特に男性監督は広末さんに己のドリームを投影しすぎというか、広末を使っていいのはもう、女の子にこれっぽっちも幻想をもっていない内藤瑛亮かんとくだけ!
「桐島、部活やめるってよ」
高校の頃特有のどこにも行けない感じを、同じ場面を視点を変えくりかえし描くことでひたすら掘り下げていくもうやめて型ド直球「青春映画」。あくまで「青春小説」である原作を元に、ここまで深みのある話にしたのはすごい。
なにせメディアはどこにも行けない感じ、をまともに描くことをすごく避けるきらいがあって、NHKさんの「六番目の小夜子」なんて隠れた名作とか言われてるけど高校三年生を中学二年生に変えてしまったりもうほんとわかってないのよね的な思考回路丸出しで辟易していてもうちゃんとそういうの描いたのって「ブギーポップ ファントム」くらいじゃないですか?という感覚も今は昔。「告白」とか「鈴木先生」とかこの作品とか、とがった作品がでてきて嬉しい感じです(本当はそんなとがってるわけじゃないのだけど)。もっと率直に言うとジャニーズに縛られずに作れるようになっていい感じです。
ふだん舞台でお芝居をやっている人がかいた(喜安浩平さん)脚本なだけあって、俳優の演技で話を進めていく姿勢などほんと泣きそうになるくらいうれしくて、クライマックスの反乱シーンなんて涙こらえるのに必死でした。
決してわかりやすい映画ではなく、解釈も多くあってモヤモヤする映画なのですが、ぜひリアルタイムで観ていただいてほかのひとに自慢していただきたい作品です。
「先生を流産させる会」
早くしないとおわっちゃう!と思いあわてて渋谷ユーロスペースに駆け込みましたが、延長上映も決まったらしいのでそんなあせらなくてもよさげですよ。トヨザキ社長のトークイベとかもあるみたい。
主犯生徒グループの性別や彼女たちが引き起こした悪戯の結果など、実際の事件と詳細が違うことについては、「お前らのやろうとしていたことは、こういうことだからな!」という力強いメッセージであると受け取りました。作品の強烈さもさることながら、主演の女の子とその父親が出演をOKするまでのエピソードとか、.エンドロールで「協力:小山町役場産業振興課」と出てくることとか、監督は普段ふつうのサラリーマンであるとか、この映画をとりまく状況に心動かされています。
主演の小林香織さんは当時小6なんですが独特の雰囲気(眼の力強さ!)ですばらしい演技をしていて、この映画に出演を決めた本人も親も交渉した監督もすごいっすわ。先生役の宮田亜紀さんも、俺の高校の担任と雰囲気が似ていてぎょっとしたりしました。ああいう、FF7のイリーナみたいな髪型してたんですよ。